rRNA除去RNA-Seqは通常のRNA-Seqと何が違うのか
RNA-Seqでは、poly(A) selectionのほかに、 rRNA depletion(rRNA除去)によってライブラリを作成することがあります。
poly(A) selectionでは、poly(A) tailを持つ成熟mRNAが主な解析対象になります。 一方、rRNA depletionでは、RNAの大部分を占めるrRNAを除去し、 それ以外のRNAを広く残します。
そのため、rRNA depletionによるRNA-Seqデータには、 mRNAだけでなく、lncRNA、antisense RNA、non-poly(A) RNA、 pre-mRNA、イントロン由来RNAなども含まれる可能性があります。
通常のmRNA発現解析よりも、広い種類のRNAに関する情報が残っている可能性があることが、 rRNA depletionデータの大きな特徴です。
昔の解析では、取得された情報を十分に利用できなかった可能性がある
2010年代半ばのRNA-Seq解析では、 STARなどでリードを参照ゲノムへマッピングし、 GTFファイルに登録された遺伝子を数えて、 DESeq2などで発現差解析を行う方法が一般的でした。 この方法は当時としては標準的であり、 現在でも既知遺伝子の解析に広く利用されています。
しかし、当時使用されていたGTFファイルには、 現在ほど多くのlncRNA、antisense RNA、 transcript isoformが登録されていませんでした。 そのため、FASTQファイルにはリードが存在していても、 GTFに登録されていないRNAはGene Countsに現れません。
ゲノムへリードがマッピングされることと、 遺伝子単位のGene Countsとして集計されることは別です。 当時利用できたアノテーションと解析環境では、 rRNA depletionによって取得された情報を 十分に活用できなかった可能性があります。
GEOが提供するGene Countsだけでは見つけられないRNAがある
GEOでは、一部のRNA-Seqデータについて、 標準的な処理によるGene Countsが提供されています。
これは既知遺伝子の発現差解析を行う場合には便利ですが、 基本的には既定の遺伝子アノテーションに基づいて作成されています。 したがって、未注釈のantisense transcript、新規lncRNA、 新しいisoformなどは、GEOのGene Countsにも含まれない可能性があります。 このようなデータの再解析価値は、 既存のGene Countsに対して統計解析をやり直すことだけにあるのではありません。
FASTQファイルに戻り、 現在のアノテーションとtranscript assemblyを使って、 以前は数えられなかったRNAを取り直すことにあります。
rRNA除去RNA-Seqは再解析の価値が高い
rRNA depletionでは、poly(A) selectionよりも広いRNA種がライブラリに残ります。 そのため、過去に取得されたデータであっても、 FASTQファイルが公開されていれば、 現在のアノテーションや解析手法を使うことで、 当時は見えなかった情報を取り出せる可能性があります。
例えば、次のような再解析が考えられます。
- 現在のアノテーションに登録されたlncRNAやantisense RNAの再定量
- 新しいtranscript isoformの探索
- 遺伝子間領域やイントロン内にあるtranscriptの検出
- 未知transcriptと既知遺伝子の位置関係の解析
現在なら、未知transcriptも含めて再解析できる
現在のGTFには、過去より多くのlncRNAやantisense RNAが登録されています。 しかし、rRNA depletionによって取得されたRNA-Seqデータには、 現在のGTFにも登録されていない未知のncRNAやtranscriptが 含まれている可能性があります。
そのため、最新のGTFを使って既知transcriptを数え直すだけでは、 rRNA depletionデータの情報を十分に利用できない場合があります。
未知transcriptを探索する場合には、 STARなどでリードをゲノムへアラインし、 StringTieなどで転写産物(transcript)の構造を再構築します。 その後、既知transcriptと高信頼な未知transcriptを統合した新しいGTFを作成し、 そのGTFに基づくtranscriptome配列を用意します。
そして、その統合transcriptomeを参照として、 すべてのSampleをSalmonなどで再定量します。 これにより、既知RNAと新たに見つかったtranscriptを 同じ発現量テーブルの中で比較できるようになります。
FASTQ
↓
QC
↓
STAR
↓
StringTie
↓
既知・未知transcriptの分類
↓
低信頼候補の除外
↓
位置・近傍遺伝子・コード能などのAnnotation
↓
既知transcript+高信頼な未知transcriptを統合した
新しいGTF/transcriptomeの作成
↓
統合transcriptomeを使ったSalmonによる全Sampleの再定量
↓
発現差解析・可視化
ここでは、 STARなどによるゲノムアラインメントは未知transcriptを再構築するための基盤を作り、 Salmonなどは構築後のtranscriptomeに対する定量を行う という役割になります。
antisense RNAを解析する前にstrandednessを確認する
antisense RNAをsense RNAと区別して解析するためには、 元のRNA-Seqライブラリにstrand情報が保持されている必要があります。
論文にstrand-specific libraryであることが明記されていない場合でも、 公開されているSTARのReadsPerGene.out.tabなどから、 forwardとreverseのどちらにカウントが偏っているかを確認できる場合があります。
ただし、再解析時には、 FASTQファイルからstrandednessを改めて確認する必要があります。
ライブラリがunstrandedであれば、 同じゲノム領域で重なるsense RNAとantisense RNAを 正確に分けて定量することはできません。
したがって、antisense transcriptを探索する場合には、 最初に次の点を確認する必要があります。
- ライブラリがstrandedかunstrandedか
- forward-strandedかreverse-strandedか
- 解析ツールのstrand設定がライブラリと一致しているか
未知transcriptを解釈できる情報に変える
StringTieなどで未知transcriptを構築すると、 MSTRG.1234.1のような、そのままでは意味を読み取れないIDが付けられます。
そこで、元のIDを残したまま、次のようなAnnotationを追加します。
- 染色体上の位置
- strand
- exon数とtranscript長
- 既知遺伝子との重なり
- sense/antisenseの関係
- intergenic、intronic、novel isoformなどの分類
- 最も近い既知遺伝子
- 近傍遺伝子までの距離
- タンパク質をコードする可能性
- 各サンプルにおける発現量と発現差
このように整理することで、 意味不明な番号だった未知transcriptを、 既知遺伝子との位置関係や発現パターンから解釈できるようになります。
Subio Platformで解析する場合の注意点
Subio Platformで扱う通常の「Platform」は、 公共データベースのIDセットと、 それらに対応する遺伝子アノテーションを基盤として構成されています。
一方、transcript assemblyによって作られたMSTRG IDなどは、 その解析で初めて定義されたIDであり、 公共データベースには登録されていません。 そのため、このような未知transcriptを含むデータを解析するときは、 通常の「Platform」に追加するのではなく、 そのSeries専用のPlatformとして構築する必要があります。
ただし、この専用「Platform」は、 その作成時に使用したSample群から構築されたtranscriptomeを基盤としているため、 原則として当該Series専用になります。 未知transcriptの構造やIDは、 解析に使用するSampleとread coverageによって変わる可能性があるため、 新しいSampleだけを後から既存の「Platform」へ追加することはできません。
別のSampleも含めて再解析する場合には、 既存Sampleと新しいSampleをすべてまとめてFASTQファイルの処理からやり直し、 別の新しい「Platform」を作成する必要があります。
AIに相談しながらパイプラインを構築できる
以前は、このような解析を行うために、 各ツールのマニュアル、コマンド、入出力形式を 一つずつ調べる必要がありました。 現在はAIに、次のような点を相談しながら、 目的に合ったパイプラインを組み立てることができます。
- STARとSalmonをどのように使い分けるか
- strandednessをどのように確認するか
- どの参照ゲノムとGTFを使うか
- 未知transcriptをどのように構築・分類するか
- 低信頼候補をどのように除外するか
- 未知IDに近傍遺伝子などのAnnotationを付ける方法
- 発見した未知transcriptを既知transcriptと統合したGTF/transcriptomeをどのように作るか
- 構築したtranscriptomeをSalmonで再定量する方法
詳しいコマンドを最初から覚えていなくても、 目的、入力ファイル、期待する出力をAIへ伝え、 処理を一つずつ組み立てることができます。
ただし、AIが提示した処理をそのまま実行するのではなく、 次の点を確認する必要があります。
- ライブラリ調製法
- paired-endかsingle-endか
- strandedness
- 参照ゲノムとGTFの整合性
- 既知transcriptの定量か未知transcriptの探索か
- 未知transcriptの信頼性
- 各ツールの出力が何を表しているか
AIは解析を自動的に正しくしてくれるものではありません。
しかし、必要な処理を選び、 実行可能なパイプラインへ落とし込むための支援としては、 以前よりはるかに利用しやすくなっています。
まとめ
rRNA depletionによって取得されたRNA-Seqデータには、 mRNAだけでなく、lncRNA、antisense RNA、non-poly(A) RNA、 pre-mRNAなどの情報が含まれている可能性があります。
一方、過去の解析や標準的なGene Countsでは、 当時のGTFや既知遺伝子を中心としたカウント方法のため、 それらの情報が十分に反映されていないことがあります。 このようなデータでは、 既存のGene Countsを再利用するだけでなく、 FASTQファイルから未知transcriptを探索し、 それらを統合した新しいtranscriptomeを作成して再定量することで、 新しい発見が得られる可能性があります。
rRNA depletionによって取得された過去のRNA-Seqデータは、 古いから価値が低いのではなく、 当時は見えなかった情報が残されている可能性があるからこそ、 現在再解析する価値が高いデータと言えます。
