RNA-Seq解析について議論していると、バイオインフォマティクスの観点ではもっともな説明なのに、生物学の研究者としては納得できないことがあります。なぜ、同じデータについて議論しているのに、話が噛み合わなくなるのでしょうか。この疑問を考えていくと、単に統計学と生物学の考え方の違いだけではなく、科学研究において「何を問うべきか」を考えることの難しさが見えてきます。そして、これはAIへの問いの発し方を考えるうえでも、重要なポイントになると思うのです。
統計学的に正しい解析と、生物学的な発見は同じ問題なのか?
例えば、健常者群と患者群の2群でDEGを抽出したいとします。このとき、バイオインフォマティクスの観点からは、適切なフィルタリングや統計モデルの選択、統計的な信頼性の確保などが重要になります。しかし、実験生物学者としては、別の視点があります。健常者群は、コントロールとして本当に均質なのだろうか。表面的には同じ病態に見える患者群の中にも、発現プロファイルを調べれば、未知の疾患サブタイプが見つかるのではないか。さらには、測定上のノイズやバッチエフェクトが紛れ込んでいる可能性もあります。つまり、実際にデータを見てみなければ、何が問題なのかさえ分からないものと向き合っているのです。
ここで食い違っているのは、統計モデルの正しさそのものではなく、解析において何を問題として意識しているかという点です。DEGを抽出するために、適切なフィルタリングや統計モデルを選択することは、もちろん重要です。しかし、実際のデータには、解析を始める段階では想定していなかった生物学的な不均質性や、実験・測定に由来する問題が潜んでいるかもしれません。生物学者は、そうした可能性も含めてデータを調べたいと考えることがあります。もちろん、現実には両者がそれぞれの立場に固定されているわけではなく、互いの視点を取り入れながら解析を進めています。それでも、議論しているうちに、知らず知らずのうちに何を重視しているかがずれて、話が噛み合わなくなることがあるのです。
ただし、すべての研究者がバイオインフォマティクスの担当者と十分時間をかけて議論ができる環境に恵まれているわけではありません。バイオインフォマティクスの専門家がいない研究室で、教科書やウェブサイトを参考にしながら自分で解析を進めている研究者もいます。また、解析を別の研究室や外部のサービスに依頼している場合には、解析を担当する専門家と研究目的やデータの特徴について十分に議論できるとは限りません。その結果、バイオインフォマティクスの分野で確立された標準的な解析手順を、自分の研究目的に本当に適しているか十分に検討できないまま、受け入れざるを得ないこともあります。
何を探すべきか、まだ分からないから研究している
この問題には、もう一つ難しい側面があります。特定の仮説を統計的に検証するためには、何を評価したいのかを明確にする必要があります。しかし、生物学の探索的研究では、何を探すべきなのか自体が、まだ分かっていないことが多くあります。予想しなかった発現パターンを見つけ、それが何を意味するのかを考える。複数の仮説を立て、追加の解析や実験によって確かめる。その結果、最初に考えていた研究目的そのものが変わることもあります。
何を探すべきかが分からないから研究しているのに、解析を始めるためには何を探すのかを決めなければならない。
これは、探索的な科学研究に共通する難しさです。以前、「統計学と生物学のあいだで」という記事でも、John Tukeyの探索的データ解析の考え方を紹介しながら、問いを立て、データを見て、その問いを修正していくことの重要性を考えました。Kelderらも2010年のPLOS Biologyの論考で、正しい答えを求めるだけでなく、適切な問いを見つけることの重要性を論じています。
例えば、患者群の発現プロファイルを可視化してみると、一部の患者だけが他とは大きく異なることに気づくかもしれません。その違いが未知の病態を反映しているのか、試料の品質やバッチエフェクトによるものなのかは、さらに調べてみなければ分かりません。そこで、サンプルの情報や品質を確認し、場合によっては当初の解析方針を見直すことになります。最初に決めた解析手順を正確に実行するだけでなく、データを調べる過程で新しい問題に気づき、何を調べるべきかを考え直す。 これも、生物学研究の重要な部分なのです。
バイオインフォマティクスの理論や解析手法を学ぶときにも、この違いを意識することが大切ではないでしょうか。そこで論じられているのは、何を調べたいかが明確になっている問題を、どのように正しく解くかという話なのか。それとも、何を調べるべきかもまだ分かっていない段階で、未知の問題を発見するための方法論なのか。バイオインフォマティクスの専門家と十分に議論できる環境にあればよいのですが、そうでなければ、教科書や解説記事で紹介されている解析手法が、主にどちらの問題に答えるためのものなのかを、自分で見極める必要があります。
実はこのようなすれ違いは、AIとの対話でも頻繁に起こります。
バイオインフォマティクスの専門家に十分相談できない研究者にとって、AIは、教科書や解説記事だけでは得られなかった対話の機会を与えてくれます。疑問をその場で質問し、自分の研究に適した解析手法を相談できるのは大きな利点です。しかし、ここで「解析のやり方を教えて」などと大雑把な問いを投げてしまうと、AIは、研究者が既に明確になっている問題を正しく解く方法を知りたいのか、それとも、まだ何を調べるべきか分からない段階で未知の問題を発見する方法を知りたいのかを十分に区別しないまま、文献に多く記載されている標準的な解析手順や統計学的な説明に偏った回答をしがちです。
しかも、教科書と異なり、AIは自分の研究について個別に答えてくれるため、こちらの研究目的や実験の背景、暗黙の前提まで理解しているかのように感じてしまうことがあります。実際には、研究者が伝えていない情報をAIが勝手に推測しているだけなので、ずれが生じて当たり前なのですが、それでもAIは滑らかで説得力のある文章を生成できるので、何が伝わっていないのかという問題そのものに、研究者が気づきにくいのです。
AIが学習してきた科学知識には、何が含まれているのか?
前の章では、研究者が伝えていない情報をAIが推測で補ってしまう問題を考えました。しかし、問題はそれだけではありません。AIが学習・参照している科学知識そのものにも、欠落や偏りがあるということです。
まず、科学文献に書かれていることが、すべて正しいわけではありません。オミクスデータを利用した研究の中には、実験デザインやデータの品質、解析方法に問題があり、結論の信頼性に疑問が残るものも存在します。例えば、2024年にGenome Biologyで発表された研究では、公開されている40の臨床関連RNA-Seqデータセットを調べたところ、そのうち14データセットで比較群間のサンプル品質に大きな不均衡が認められ、DEG解析の結果にも影響することが示されました。これは限られたデータセットを対象にした調査であり、すべてのオミクス研究に一般化できる数字ではありませんが、論文として発表された結果にも見落とされている問題が存在することを示しています。
さらに、研究者が発表した論文だけを見ていては分からないこともあります。生物学の研究現場では、思いどおりの結果が出なかった実験や、再現できなかった現象、解析の途中で気づいた問題など、無数の経験が積み重ねられています。しかし、そのすべてが論文になるわけではありません。否定的な結果や統計的に有意でなかった結果が公表されにくいという出版バイアスは、以前から科学研究の問題として知られています。
Ending publication bias: A values-based approach to surface null and negative results
そして、論文になっていない知識は、実験の失敗例だけではありません。経験豊富な研究者は、データを見ただけで何か不自然だと感じたり、過去の経験から思いがけない原因を疑ったりすることがあります。その判断の根拠を詳しく聞けば説明できるかもしれませんが、普段は文章として記録されていないこともあります。こうした経験的な知識は、公開された科学文献を大量に学習するだけでは、十分に獲得できない可能性があります。
もちろん、これはAIに限った問題ではありません。人間の研究者も、すべての論文を読むことはできませんし、他の研究室で積み重ねられた失敗や経験をすべて知っているわけではありません。むしろAIには、一人の研究者では到底把握できない広範な知識を結びつけられるという、大きな可能性があります。
つまり、AIが学習・参照している科学知識そのものに偏りがあるため、AIの回答も、気づかないうちに偏ったものになっている可能性があるという点です。標準的な解析手法について詳しく説明できても、その手法が実際の研究でどのような問題を引き起こしてきたのか、どのような試行錯誤が積み重ねられてきたのかについては、十分な情報を持っていないかもしれません。しかも、AIの説明は論理的で説得力があるため、利用する研究者も、そのような偏りが存在することに気づきにくいのです。
しかし、AIの進化はここで止まるわけではありません。AIが利用する科学知識に欠落や偏りがあるとしても、既存の知識やその前提を疑い、異なる可能性を考え、何がまだ分かっていないのかを認識できるようになれば、これまでとは違った研究への貢献が期待できます。その鍵となるのが、AIの推論能力です。
知識と情報の限界を乗り越えるために、推論とは何かを整理する
科学研究で必要になる推論には、いくつかの異なる種類があります。それぞれの特徴と、AIの発展における可能性を考えるために、ここでは五つに分けて整理してみます。
1. 演繹的推論 ― 既知の前提から、論理的に正しい結論を導く
数学の証明や統計モデルの性質の理解、プログラムの検証などが典型的な例です。正しい答えを比較的明確に定義できるため、AIの能力を評価しやすい領域でもあります。特に、数式による検証やプログラムの実行など、推論の結果を客観的に確かめられる場合には、誤りを発見して修正する仕組みを取り入れることもできます。
現在のAIは、高度な数学やプログラミングの問題を解ける一方で、比較的単純な論理的帰結を見落とすこともあり、その能力を常に安定して発揮できるわけではありません。それでも、推論の正しさを検証しやすいという特徴から、今後大きな進歩が期待できる分野でしょう。
ただし、どれほど論理的に正しく推論できても、出発点となる前提が間違っていれば、現実に正しい結論が得られるとは限りません。つまり、演繹的推論の能力が向上しても、AIが学習・参照している科学知識に含まれる偏りを、自動的に見抜けるようになるわけではありません。
2. 帰納的推論 ― データから規則性を見つける
大量の遺伝子発現データから共通するパターンを見つけたり、異なる実験結果に共通する傾向を探したりすることが典型的な例です。AIは膨大なデータを扱い、人間には気づきにくい複雑な規則性を発見する能力を持っています。今後、解析できるデータの規模や種類が増え、異なる分野の情報を統合する能力が向上すれば、さらに大きな進歩が期待できるでしょう。
ただし、データから発見された規則性が、未知のサンプルや異なる実験条件でも成り立つとは限りません。例えば、特定の疾患と関連しているように見えた遺伝子発現パターンが、実際にはサンプルの収集方法やバッチエフェクトに由来している可能性もあります。また、AIが学習する科学文献に成功例が多く、失敗例が十分に含まれていなければ、そこから導かれる傾向にも偏りが生じるかもしれません。
つまり、帰納的推論の能力が向上しても、元となるデータや科学知識に含まれる偏りを、自動的に克服できるわけではありません。
3. 仮説形成(アブダクション)― 観察結果を説明する可能性を考える
例えば、患者60人のうち3人だけに認められた遺伝子発現パターンについて考えてみます。未知の疾患サブタイプ、治療歴の違い、細胞組成の違い、測定上の問題など、さまざまな仮説が考えられます。仮説形成(アブダクション)とは、このように観察された現象について、考えられる説明を見つけ出す推論です。AIは異なる分野の膨大な知識を結びつけられるため、人間が思いつかなかった仮説を提案する可能性があります。
実際、2026年にNatureで発表されたCo-Scientistの研究では、AIが科学的仮説を生成し、批判・改良する仕組みを構築し、提案された仮説の一部が生物学的実験によって支持されることも示されました。これは、AIが既存の知識を説明するだけでなく、新しい科学的発見にも貢献できる可能性を示しています。今後、知識を統合する能力や推論能力が向上すれば、科学研究への貢献はさらに大きくなるでしょう。
ただし、観察された現象には複数の説明が成り立つことが多く、どの仮説が正しいのかを判断するのは簡単ではありません。AIが非常に説得力のある仮説を提示したとしても、それが実際の生物学的現象を正しく説明しているとは限りません。また、既存の科学知識に偏りがあれば、AIが提案する仮説も、よく知られた説明に偏ってしまい、未知の可能性を十分に検討できないことが考えられます。
それでも、予想外の観察結果から新しい仮説を生み出し、異なる分野の知識を結びつけ、検証する価値のある仮説を選び出す。現在、探索的研究の最前線で研究者が行っているこうした知的活動を、AIが自律的に進められるようになる可能性があります。 さらに、実験の自動化と結びつけば、膨大な数の仮説を生成し、検証し、その結果から次の仮説を生み出すという研究のサイクルを、大規模かつ並列に実行できるようになるでしょう。つまり、研究の工場化につながる発展です。
4. 因果推論 ― 観察された変化の原因を考える
ある遺伝子の発現が疾患と強く関連していたとしても、その遺伝子が疾患の原因であるとは限りません。疾患によって発現が変化した結果かもしれませんし、別の要因によって両方が変化している可能性もあります。因果推論とは、こうした複数の可能性を検討し、観察された関係の背後にある原因を明らかにしようとする推論です。AIが因果モデルの構築や実験デザインの検討を支援し、さまざまなデータを統合できるようになれば、研究者が原因となる因子を特定し、仮説を検証する過程に大きく貢献する可能性があります。
ただし、観察データだけでは、複数の因果関係を区別できない場合があります。AIがどれほど高度な推論を行っても、データから判断できない因果関係を確定することはできません。そのため、場合によっては遺伝子の機能を操作する実験や、新たな条件での観察など、追加の証拠が必要になります。
しかし、AIが複数の因果仮説を比較し、それぞれを検証するために必要な実験や解析を具体的に設計できるようになれば、研究の進め方は大きく変わるかもしれません。さらに、実験設備の自動化と結びつき、何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを整理し、次に何を確かめるべきかを判断して、実験と解析を繰り返す過程まで自律的に進められるようになれば、研究の無人化も現実的な可能性として見えてきます。
5. 問いそのものを見直す推論 ― 本当に調べるべきことは何か?
しかし、AIが非常に高度な仮説形成能力を獲得し、研究の工場化や無人化が進むことと、そもそも何を研究すべきかを判断できるようになることは、同じではありません。この間には大きな飛躍があります。BattledayとGershmanも、2026年の論考で、あらかじめ設定された科学的問題を解くことと、研究すべき問題そのものを発見することを区別しています。
例えば、最初は疾患群と健常群のDEGを調べようとしていたのに、データを詳しく見るうちに、疾患群の中に複数の異なる発現パターンが存在することに気づいたとします。そこで、疾患群全体のDEGを探すよりも、未知の疾患サブタイプを探索する方が重要ではないかと考える。これは単に解析方法を変更するのではなく、研究で何を明らかにすべきかという問いそのものを見直すことです。
こうした場面では、AIが自律的に研究目的を決定する必要はありません。研究者が自分の考えをAIに伝え、別の可能性や見落としている問題がないかを問いかけることで、自分自身の研究目的を見直すことができます。ただし、前の章で考えたように、AIが利用する科学知識には欠落や偏りがあり、研究者が持っている経験や問題意識も、すべて伝わっているわけではありません。だからこそ、AIの提案をそのまま受け入れるのではなく、研究者自身が何かおかしいと感じたことや、重要だと考えていることを伝えながら、議論を深めることに意味があります。
こう考えると、研究の工場化や無人化が進んでも、人間の研究者がいなくなるとは思えません。もちろん、AIがこうした能力をどこまで発展させられるかは、まだ分かりません。しかし、少なくとも研究を自動化できる範囲が広がることと、人間の研究者が不要になることは、同じではないでしょう。人間がAIに知識や経験を与えるだけでなく、AIとの対話を通じて、人間自身の考え方も変わっていく。 そこにAI時代の科学研究の大きな可能性があると思います。
ここまで五つの推論を整理してきましたが、これはAIの未来を考えるためだけではありません。今現在、AIを研究に利用するときに、研究者が何を考え、AIに何を伝え、どのような問いを投げかければよいのかを考えるための手掛かりでもあるのです。
研究者はAIに何を伝え、どのような問いを投げかけるべきなのか?
1. 研究目的と、まだ分かっていないことを伝える
例えば、「RNA-SeqのDEG解析にはどの方法が適切ですか?」と質問すれば、AIはedgeRやDESeq2などの標準的な解析手法を説明するでしょう。しかし、その研究で本当に知りたいことが、疾患群全体に共通する発現変化なのか、特定の患者だけに認められる特徴なのかによって、検討すべき解析方法は変わってきます。
AIに研究について相談するときには、既に明確になっている問題を解決したいのか、データを調べながら未知の問題を発見したいのかを伝えることが重要です。もちろん、実際の研究では両方が必要になることもあります。その場合には、「標準的な解析手順によって当初の研究目的を達成する方法だけでなく、データに潜んでいる未知の現象や問題を発見するための方法も考えてください」と指示することができます。
例えば、「疾患群全体の変化だけでなく、少数の患者に特徴的な発現パターンにも興味があります。疾患群が均質であるとは仮定せず、考えられる解析方法を比較してください」と伝えれば、AIはより広い観点から問題を検討しやすくなります。また、研究目的がまだ明確でない場合には、「何を調べることが最も有意義なのか、まだ分かっていません。データから考えられる異なる研究上の問いを提案してください」と伝えてもよいでしょう。
2. 自分の経験や、データについて気になっていることを伝える
AIが利用できる科学文献には、研究現場で蓄積されてきた経験のすべてが含まれているわけではありません。だからこそ、研究者自身が知っている情報をAIに伝えることには意味があります。例えば、特定の実験条件で測定値が不安定になった経験や、サンプルの調製方法によって結果が変わったこと、あるいはデータを可視化して気づいた不自然なパターンなどです。
「以前、同じ測定方法で特定の条件だけに異常な値が出たことがあります。今回の結果にも同様の問題が含まれている可能性を検討してください」と伝えれば、AIはその情報も踏まえて考えることができます。もちろん、研究者の経験そのものが正しいとは限りません。大切なのは、論文に書かれた知識だけでなく、研究者自身の経験も検討の材料にし、その妥当性までAIと議論することです。
3. 研究目的に合わせて、解析方法そのものをAIと考える
ここまでのように、研究目的やまだ分かっていないこと、研究者自身の経験やデータについて気になっていることをAIに伝えたうえで、解析方法そのものを一緒に考えることができます。これまでは、バイオインフォマティクスの専門家が開発した解析手法から、研究目的に適したものを選択することが一般的でした。しかし、AIが研究のパートナーとして活用できるようになれば、既存の解析手法にこだわる必要はありません。研究目的やデータの特徴に応じて、既存の方法を組み合わせたり、改良したり、まったく別の解析方法を考えたりすることも可能になります。
例えば、「これまでに伝えた研究目的や実験上の経験、データについて気になっていることを踏まえて、既存の解析手法に限定せず、考えられるアプローチを提案してください。それぞれの方法で何が分かるのか、どのような問題が予想されるのか、結果の信頼性をどう検証できるのかも説明してください」と指示することが考えられます。AIにプログラムの作成まで依頼すれば、従来は専門的な開発能力が必要だった解析方法も、研究者自身が試せるようになるかもしれません。
もちろん、新しく考えた解析方法が適切であるとは限りません。統計学的な妥当性やデータの品質、結果の再現性などは、十分に検証する必要があります。しかし、既存の解析手法に研究目的を合わせるのではなく、研究目的に合わせて解析方法を考える。 AIとの協働によって、そのような研究の進め方が、より身近なものになるのではないでしょうか。
4. 自分の仮説に反対する可能性も検討させる
AIとの議論で特に注意したいのは、AIが質問者の考えに過剰に同意してしまう場合があることです。研究者がある仮説に強い関心を持っていると、AIもその仮説を支持する説明を優先し、反対の可能性を十分に検討しないかもしれません。
そこで、「私の考えに無理に同意する必要はありません。この仮説が間違っている可能性や、別の説明が成り立つ可能性を積極的に検討してください」と明示します。さらに、「それぞれの仮説を支持する証拠と反証する証拠を整理し、どのような解析や実験によって区別できるか提案してください」と求めれば、議論を次の検証へ進めることができます。
ただし、反対意見を求めたからといって、AIが提示する反論が必ず正しいわけではありません。重要なのは、AIに同意してもらうことでも、反論してもらうことでもなく、異なる可能性を証拠に基づいて比較することです。
5. 問いそのものを見直すように求める
そして、今回の記事で特に重視したいのが、この指示です。
「私が設定した研究目的や解析方針そのものが適切なのかも検討してください。データの特徴や既存の知識から、別の重要な研究上の問いが考えられる場合には、積極的に提案してください。」
研究者自身も、最初から何を調べるべきかを十分に理解しているとは限りません。解析の途中で予想外の結果が得られれば、それまでの方針を見直す必要があるかもしれません。そのとき、AIが最初に与えられた問題を解くだけでなく、問題の設定そのものを検討できれば、研究者にとって大きな助けになります。
また、AIが新しい問いを提案した場合には、「その問いを重要だと考えた理由は何ですか? どの情報に基づく判断で、何がまだ不確実ですか?」と尋ねることも大切です。AIの提案が既存の文献によって裏付けられているのか、推論によって導かれた仮説なのか、あるいは十分な根拠のない推測なのかを区別する必要があるからです。
AIに正しい答えを求めるだけでなく、AIの回答に何が足りないのかを考え、AIとともに何を問うべきかを探っていく。
それは、将来のAIに期待するだけの話ではありません。今のAIとの対話でも実践できることであり、研究者自身の知性をさらに広げていく可能性があります。